マンション管理組合で理事や委員を担当していると管理会社から検査報告書なるものが頻繁に提出されてくる。そこには「要交換」とか「要注意」のチェックが付されているものも少なくない。また、時々予防整備という言葉に接することがあるが、安全を旨とすることを求められる理事や委員にとっては「安全」とか「予防」という単語を突きつけられると、それを行わないでいることは安全軽視とか善良なる管理者義務違反の責任を追求されるかのような不安感に陥れられる。
しかし、ホントにそうだろうか?
たしかに無尽蔵の予算があればその指摘に従って全項目の修繕や部品交換を実施していくことは可能なのだが、たいていの場合は不足する予算の中でやり繰りをしていかなければならないというパターンが殆どである。
もう少し分析的に事柄を見つめてみると、そこには安全の確保とは関係のない事柄に危険という雰囲気を醸し出させて無用な支出を強いているところがあるのではないだろうか?無用な事柄に無用な費用を掛けさせることによって、実は真に必要な事柄に配分すべき費用を枯渇させているのではないだろうか?
もしそうであるなら必然的に優先順位を付けて取捨選択をして行く必要が出て来る。
今回はこの取捨選択をする際に迷いを伴わずに決心できる根拠と基準について触れてみたいと思う。
飛行機のエンジンはもし飛行中に機能停止したら、直ちに深刻な事態に陥いるであろう。それに引き換え自動車のエンジンが走行中に機能停止したら厄介な事にはなるであろうが、だからといって直ちに死に至るという緊急事態に直結する訳でもない。即ち被害が壊滅的結果に陥るか、限定的であるかによる区別である。
この違いが「故障回避にどの程度対価を支払うことが妥当なのか?」を判断する第一の基準となる。
次にこの第一基準の例とは別に、一見似ていて微妙に異なるもう一つの判断基準がある。それが第二の基準となる「フェールセーフの概念」であり、この思想が内装されているか否かによる判断である。即ち機能停止、或いは故障した時に不便ではあっても、安全サイドの結末に落ち着くか、危険サイドの結末に陥るかの違いで判断する基準である。
故障が安全サイドに落ち着く性向、これは逆手に取ると安全装置として利用することさえ出来る。分かり易い例としてヒューズがある。ヒューズが飛ぶという事態は決して好ましいことではないにせよ、これは電気回路としての機能停止(極端な言い方をすれば故障)を起こすことで安全を確保することが出来る。
また警告表示を例に取ると、警告灯を点けるのではなく、青い正常作動灯を点けることにより、仮に球切れがあっても不表示誤認を防ぐことが出来る、といった類の考え方がその系の中に内装化されているか否かによる判断である。
そこでこの第一の基準と第二の基準の考え方を用いて、機能停止或いは機能不良に陥った場合に直ちに危険で且つその結果が壊滅的な状況に陥るものに優先順位を付けていくわけであるが、「漏れかけている下水パイプ」や「剥離しかけている外壁タイル」などがこれに該当すると考えられる。
優先事項についてはたいてい誰にでも分かることなので多くの議論を必要としない。それに対し多くの人が最も迷い悩むのは、実は「優先順位を下げても構わない事柄は何であるか?」を見極めることであり、更にはその判断基準である。この判断を行う正しい考え方をマンション設備の維持管理に応用することが出来れば、無用な不安を取り去りながら安心して設備機器を経済的に維持する方法が見出だせるようになるのである。
次回はこの「重要でも緊急でもない事柄とは何なのか?」。故無き安全や安心を理由に誹謗、指弾される恐れがある時に、胸を張って反論できる根拠について掘り下げていこうと思う。
(私有自楽)
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(投稿日:2016年01月20日 | カテゴリー:日常修繕)